研究会 (2004 年 7 月 30 日)


日時: 7/30(金) 14:00〜17:30

場所: 九州工業大学天神サテライトキャンパス Kyutech Plaza
      http://www.ims.co.jp/shop/shop/11_04.html
      http://www.kyutech.ac.jp/plaza/

講演: 1. ベンケイソウ型有機酸代謝における体内リズムの推定と制御
         (大分大学 松尾孝美, 14:00〜15:30)
      2. 信頼性を考慮した制御系設計における性能と信頼性のトレードオフ
         (九州工業大学 瀬部昇, 15:45〜17:15)

懇親会: 18:30〜20:30
        海鮮食堂すいか
        (中央区大名 1-10-19, tel: 092-731-2332)
        http://tenjinsite.jp/mapnavi/kihon.php?tel=092-731-2332

参加者: 延山, 大屋, 伊藤, 市原, 瀬部 (以上九工大),
        楊(九大), 松尾(大分大), 佐藤(佐賀大), 宮元(三菱重工)


講演概要: 1. ベンケイソウ型有機酸代謝における体内リズムの推定と制御 (大分大学 松尾孝美, 14:00〜15:30) 自己組織化現象は自然現象や生体システムに見られ,現象の多様性,複雑性,機 能性を生む源になっている.自己組織化は,あるシステムを構成するミクロな要 素が相互作用して,自発的にマクロな秩序構造を形成する共同現象で,結果とし てシステムに多様性や複雑性を誘導し,新しい機能を創出するものである.自己 組織化には本質的に異なる2つのタイプがある. 1)閉鎖系の平衡状態で安定な構造が形成される自己集合で,結晶や機能性材料な どが例としてある. 2)非平衡の開放系で秩序構造が形成される自己組織化で,化学振動,ロウソクの 炎などが例としてある.これらの構造は本質的に不安定で,安定性を維持するた めには外部から物質やエネルギーを供給する必要がある.  後者には,自然環境や生体システムに見られるような非平衡反応におけるリズ ムの発生や空間パターンの形成などの自己組織化がある.例えば,植物は空気中 の二酸化炭素を葉内に取り込み光合成を行うことにより,ショ糖などの炭水化物 を合成する.ショ糖などの光合成産物は維管束の篩管を通って,葉から子実や根 茎などの他の器官に移動し,これらの器官の成長に用いられたり,デンプンなど に合成されて貯蔵される.特に,サボテンなどの多肉植物は,CAM型光合成 (crassulacean acid metabolism,ベンケイソウ型有機酸代謝)と呼ばれる乾燥環 境に高度に適応した炭素代謝機構を進化させている.このCAM植物は,気温が下 がった夜間に気孔を開き空気中の二酸化炭素を取り込み,酵素であるホスホエ ノールピルビル酸カルボキシラーゼを用いて有機酸,通常はリンゴ酸として固形 化し,夜間ではこれを細胞内の液胞に貯え,高温・乾燥した日中には,気孔を閉 じて水分の蒸発を抑え,葉の中でリンゴ酸から炭水化物を合成する.このような 意味から,CAM型光合成は二酸化炭素を濃縮させ,水分消費を節約する機構を備 えた光合成における特別のモードであるといわれている.このようにCAM型植物 は,二酸化炭素の取り込みと光合成の日周リズムをもっている.驚くべきこと に,昼夜のサイクルを人工的に取り除いて一定環境にしたとしても同じリズムが 多くの時間(ある例では数週間)にわたって継続することがわかっている.この ことは,CAMサイクルは外界の影響を受けない自由駆動する体内リズムになって いることがわかる.最近では,とりまく環境から供給される温度,光の照射,二 酸化炭素の量のような制御パラメータ(操作量)の変化にたいするCAM植物の応 答を研究するために,かなりの実験が行われてきている.CAM植物の体内リズム はこれらの制御パラメータ空間の限られた範囲内でのみ安定であることが知られ ている.たとえば,もし温度あるいは光の強さをあるレベル以上に増加させたな らば,連続光下での体内リズムが消失することがわかっている.臨界的な閾値レ ベルにおいて,たいへん小さな温度や光の強度の摂動でリズムが壊れてしまうこ とも報告されている.温度に関しては,リズムの消失は,高い方の臨界レベルだ けでなく,低い方の臨界レベルを通過するときにも起きる.リズムと定常状態と の遷移は可逆であることも示されている.したがって,温度,光の強度が体内 CAMリズムを決定する重要な制御パラメータになっていることがわかる.すでに 1984年に,昼夜サイクルの間のCAM代謝濃度の変化を表す非線形方程式系である 最初のCAMモデルが提案されている.最近,このモデルが改善され,連続条件下 での体内リズムだけでなく,制御パラメータを変化させたときのリズムの消失に ついてのシミュレーションも可能となった.新しいモデルでは,動的に独立な成 分の妥当な単純化が行われている.ここでは,3つの反応体,内部二酸化炭素 量,細胞質のリンゴ酸および液胞内のリンゴ酸が基本的要素であることを示して いる.このモデルでは,細胞質と液胞間のリンゴ酸の輸送調節がCAMで観測され る体内リズムの確立に重要なプロセスになっており,強い履歴現象を示す受動的 なリンゴ酸流出のスイッチングを必要としている.最近の実験で,脂質膜の構造 的な並びの形態変化がCAM植物の体内の挙動において重要な役割を果たしている ことが示された.膜モデルに基づいた理論研究から,自然の熱力学的およびエネ ルギー的条件下で,CAM植物の葉において,その液胞膜が連続的なヒステリシス スイッチとして機能することが示されている.特に,Blasiusらは,生体時計の 機構の具体例を与えている.ここで導出されるCAMサイクルのモデルは,連続変 数だけから成り,CAMダイナミクスの挙動を説明でき,Hopf分岐により作られる リミットサイクル型の体内振動は温度と他の制御パラメータ値の広い領域におい て発生することが示されている. さらに,Beckらは,CAM光合成における体内時計に対する確率的雑音の影響につ いて調べ,確率共鳴現象を用いて細胞間の同期現象を説明している.  本報告では,CAM生体リズムモデルを例として,制御理論を生体系の非線形現 象に組み込むための足がかりを得ることを目的としている.制御理論においての 中心テーマは,観測値から内部状態を推し量る推定問題と内部状態を希望の状態 に調整する制御問題である.まず,これまで提案されているCAM非線形モデルの リズム挙動をMATLAB/Simulinkにてシミュレーションし,その性質を調べる.つ いで,CAMモデルにおける推定・制御問題を定義し,適応オブザーバによる内部 状態や液胞膜の非線形特性の推定およびP制御器によるリズムの周波数制御が可 能であるかを計算機シミュレーションにて検証する. 2. 信頼性を考慮した制御系設計における性能と信頼性のトレードオフ (九州工業大学 瀬部昇, 15:45〜17:15) 信頼性を考慮した制御系設計の概念として 故障の可能性のあるセンサ(あるいはアクチュエータ) m 個のうち, k 個の故障まで許容する k-out-of-m integrity がある. ロバスト制御理論から見れば, k-out-of-m integrity は特殊な同時安定化問題であり, Asai らの提案したモデリングと制御系の同時設計の手法を用いて, k-out-of-m integrity を持つ制御系を設計することが可能である. 本発表では, 実際に同時設計の手法を数値例に対して適用し, その結果に対する考察を与える. 具体的には数値例の結果は, 同時H∞制御の枠組みで最適化を行うと 制御器の rank (状態数ではなく行列の階数)が落ちる傾向があり, その rank 落ちの程度は許容する故障の数と関連することが示唆される. つまり, 信頼性を考慮することと制御性能を向上することのトレードオフは, 制御器の rank として現れることを示唆している.

Last modified: Thu Aug 4 09:10:26 JST 2005